カイシャ本Blog

独自のジャンルを築いている「カイシャ本」の世界の魅力を綴っていきます。

■本日のカイシャ本 4:「WASHハウスの挑戦」

こんにちは。


今回紹介するのは「鶴蒔本」。世のカイシャ本ファンたちのレジェンドにして、「ありがとう浜村淳です」と並ぶ、ずっとやってるけど1回も聴いたことないラジオ「こんにちわ!鶴蒔靖夫です」のパーソナリティでおなじみ!(8500回以上放送!)

シニアにもうれしい大っき目の字の本でおなじみ!

読み始めても長い前置きすぎてなかなか会社が出てこなくて不安に…でおなじみ!

「社内に貼られていた地図が日本地図から世界地図になっている。これは世界を見据えているんだろう」とか、細かいとこまでよく気がつきすぎ!でおなじみ!

鶴蒔靖夫先生の本です。

 

WASHハウスの挑戦: コインランドリーのデファクトスタンダードへの道

WASHハウスの挑戦: コインランドリーのデファクトスタンダードへの道

 

 

こう書くと若干ディスってる風にみえますが、僕は、鶴蒔先生の偉業に世はもっと注目した方がいいと本気で思ってます。なので、カイシャ本ファンでない方々(世の大半)のために先生のことを少し紹介しておきます。


鶴蒔靖夫氏は1938年樺太生まれ。もうこの時点で「激動」って言う字が浮かんできて我々とは一味違う感じがします。

その後、人物評論社で雑誌編集を担当した後、ライター・評論家として独立。以来、ラジオパーソナリティなどをやる傍ら、かれこれ50年ちかく、自らの目線で選んだ起業家や企業などを丹念に取材し、彼らの魅力をカイシャ本に。著した企業本の数は400冊以上にものぼっています。

しかも選ぶ会社、選ぶ会社、メジャーどころを突かずかなり独特。「プラント塗装業界のパイオニア カシワバラコーポレーション」とか、ひどく渋めなのも多いです。それでも「パン、麺」など食品に使われる「でんぷん製品」のトップシェア企業・松谷化学工業とか、「激落ちくん」などを生み出す「100均グッズの雄・レック」とか、自分たちが知らないだけで毎日、お世話になっている企業を取り上げてくれることも多く、読むととても勉強になります。

ちなみに、昨今話題の加計学園も、2011年の時点でいち早く目をつけ本にしています。
「日本のいい会社」シリーズの坂本光司教授が書く「坂本本」などは、結構ビジネス誌などでもフィーチャーされている感じがしますが「鶴蒔本」は全然です。もうこれは由々しき事態です(笑)。

 

さておき、そんな「鶴蒔本」が、本書でとりあげているのは「WASHハウス」。コインランドリー業界に独自のビジネスモデルを持ち込んで今、急成長している企業です。
本の帯文も「これがコインランドリーの世界標準だ!!」と「日本よ、これが映画だ!」ばりに気合が入っています。

たしかに、最近、コインランドリーがどこも「小ぎれい」になってきたのは肌で感じます。ちょっと前までは、薄暗くて、ヤンジャンとかが散らかってる感じだったのに。その「小ぎれい化」の流れを作ったのが、この「WASHハウス」だと言えるでしょう。

 

本書は、その独自のビジネススタイルの秘密に迫っているのですが、あいかわらず冒頭1章は、なかなか本題の「WASHハウス」の話が出てきません(笑)。

その代わり、

  • 世界初のコインランドリーは米テキサス州で1934年4月18日に生まれたこと
  • 今は、1970年代の男のひとり暮らし用ランドリーブーム、1980年代の働く女性用 ランドリーブーム、2000年代の花粉症対策用ランドリーブームに続くコインランドリーの第4次ブームの最中なのだということ。
  • ランドリーの排水ダクトには、ステンレス鋼材が使われるべきなのに、コストをごまかして亜鉛など軟材を使う業者も多いこと。


…など「コインランドリー業界のへぇ~話」がたくさん身につく流れになっています。
ちなみに近年は、マンション、コインパーキングなどに続く、ちょっとした投資先として「コインランドリー」が注目を集めていますが、ランドリー投資に興味がある人も本書を読むといいかもしれません。業界や投資の現状のことも書いてありますので。

 

そして2章以降で、ようやく「WASHハウス」の独自モデルの紹介に入ります。
本書によれば、同社のビジネスモデルの特徴は大きく2つ。


➀出店費用と運営手数料以外は、WASH側が行う独自のFCシステム
②IOTを駆使した、店舗運営一括集中システム  …にあるよう。

 

➀独自のFCシステム
これまでのコインランドリー業界では、主に乾燥機など機材の販売会社がお金や土地を持っているオーナーに「コインランドリーやりませんか?」と持ち掛け、出店資金などを出してもらう、というパターンが多かったそうです。

ですが、その場合だと機材販売会社はお店の運営ノウハウなど持っておらず、機械さえ売れればあとはお任せ。また、オーナーは「お金だけ出す」といっても実際には、料金の回収や店舗の清掃などを自分でやらねばならないため手間。

だから気がつけば、清掃が手薄になり店はヤンジャンやマガジンだらけに…ということも多かった。

ですが、WASHはそこを大きく変えた。オーナーは店舗の出店費用や運営手数料だけ投資すれば、あとは同社が出店場所の選定から、清掃、料金回収、設備のメンテナンス…まで店舗運営の全てを請け負う形にしました。

そうすることで、オーナーは「お金だけ出せばいい」ので、土地の確保や人員の確保に縛られる必要もなく、多店舗の投資ができるように。また、WASH側もお金を募りやすい分、出店ペースを速めることができるようになったのです。

ちなみに、コンビニなどのFCの場合は、店員をオーナー側が用意しなくてはなりませんが、コインランドリーは店員いらずでも運営できます。だから、WASHのFCでは、オーナーは経営に全く口を出さなくてよくなるし、逆に、WASH側も口を出されないことで均一のサービスを全国に広げることができます。これも急速な成長を支える要因になっています。

そして、店舗運営の全てを任されたWASHは、店にソファなどを置かないことで長居する客を減らし、女性客の不安を解消する(長居している男の客にジロジロみられるのは嫌)など、キメ細やかな店づくりを行いました。これが近年のコインランドリーの「小ぎれい化」の流れにつながったのです。

ちなみに個人的には乾燥機の乾燥温度もしっかりと表示することで「わざと低い温度にして長時間回させてお金を取るなどしてませんよ」と示しているところなども配慮が行き届いてるな、と感心させられました。

 

②IOTを駆使した、店舗運営一括集中システム  
コインランドリーは無人ですが「店員が応対するのと同じ状況を作りたい」と考えたWASHの児玉康孝社長は、店内の4隅に監視カメラを取り付けつつ、その映像を本社の監視センターで一括管理。来客が機械の使い方などで困れば、遠隔操作でオペレーターが対応できる仕組みを作りました。

これにより、お金を盗もうとする不届者がいても「やめなさーい!」と警告を発することもできるようになり、盗難被害も減ったそうです。

また、売り上げや、何時に何回機械が使われるか?などのデーターも本部で一括管理。出店場所の割り出しに使われたりするそう。こうしてビッグデータを収集していることもあり、過去15年で退店したランドリーは1店舗もないといいます。これはなかなかすごいことです。銭湯の脇にある薄暗いブースのイメージからは大分進化しています。

こうした経営の2本柱を中心に同社は、コインランドリー利用率3%という「コインランドリーの僻地」宮崎県から事業を起こし、今や、全国410商31億円の成長企業になっています。今後は、このシステムをアメリカやタイにも輸出し、グローバル展開を図ろうともしているようです。「これがコインランドリーの世界基準だ!!!」もダテじゃないです!

というか、本の中に出てくるタイのコインランドリーの画像が「外に洗濯機並べてるだけじゃん!」という感じでなかなかショッキングです、、WASHさん!早く、タイに行ってあげてよ!

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なお、同書には、児玉社長の半生も書かれているのですが、「えこひいきと取られたくないから幹部以外の社員とは一切話さない」など、えええっっーーとなることも結構書いてあり、「やっぱ社長になる人って尋常じゃねえな」と思わされます。社長の人生に興味のある方はぜひとも読んでみてください。

 

「鶴蒔本」の魅力はまだまだ400分の1を伝えた程度。今後も、折に触れ紹介していきたいと思います。

■本日のカイシャ本③:「食(おいしい)は愛(うれしい)」

こんにちは。

 

「カイシャ本」を読む楽しみの1つに「今まで知らなかった”いい会社”」を知れる楽しみがあります。本書もその1つ。もう、タイトルからしてイイ人しか出て来なそうな気配が漂っています。 

 

 

この本で取り上げられているのは、大阪などを中心に32店舗を展開するスーパーマーケットチェーン大近株式会社。関西圏に住んでいる人ならば「PantryやLuckyをやっている会社」といえばピンと来るかもしれません。

関東にも川崎市に溝口店があるのですが、僕は本書を読むまでこのスーパーのことを知りませんでした。 

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じゃあ、この「Pantry」や「Lucky」というスーパーは他と何が違うのか?

それは、徹底して「食の安全」にこだわり、無添加や、無農薬、天然物を追求しているところです。

無添加」や「無農薬」や「天然物」というと、最近ではどのスーパーにも置いてありそうな気がしますが、実際には、「ソルビン酸という保存料だと『保存料』と書かねばならないが、酢酸ナトリウムだと『保存料ではない保存料』なのでセーフ」みたいな不思議なルールに守られていたりするそうです。というか「保存料ではない保存料」って何なのでしょうか…?

美川憲一さんは女じゃないけど女風だ」みたいなことでしょうか。

 

また、加工品そのものは無添加でも、それを味付けする醤油に添加物が含まれているような場合もあります。これを「キャリーオーバー」と言うそうですが、この問題を考えると、原料から何から全て自分のところで作っている加工工場なんてほぼないので、気安く「無添加」とは言えなくなります。

だから、「Pantry」でも積極的に自社商品を「無添加」とは打ち出していません。その分、他が「無添加無添加」と主張するので、「無添加映え」しなくなっていますが、それよりも「誠実さ」を大事にしているそうです。なんていい会社なんでしょう。

とはいえ、無添加とは打ち出していないものの、自社ブランドの製品は、お弁当だろうと、お惣菜だろうと、ハム・ソーセージだろうと、スイーツだろうと極力、大近の自社工場(6か所)で他社任せにせず手作り。化学調味料や保存料の排除を追求。おにぎりなどは塩しか調味料を入れずに作る徹底ぶりです。

また、野菜なども大近バイヤーが直接農家の元に向かい、土の状況から周囲の状況まで調べたうえで「ここなら安全だ」と思えるところから仕入れています。

 

その成果が巻末資料・「他社製品との成分ラベル比較表」に現れています。ここでは大近の商品と、近隣スーパーやコンビニにある同じ商品の成分ラベルを比較しています。

たとえば「おにぎり」を見てみると…他社のものには「アミノ酸(等)」「ソルビット」「カラメル色素」など多くの化学調味料の使用に○印がついてます。ですが、大近のおにぎりには全く○がありません。ベーコンなど他の商品も、見た目は発色をよくする調味料を使っていないため色が暗めですが、成分表には気持ちいいほど○が見当たらない。これはなかなか壮観な光景です。

ですが、その分苦労も多い。というのも、保存料を使わないということは保存期間が短くなるということ。そのため、お弁当などはスタッフが22時ごろから夜なべして作り、早朝に工場からトラックで店舗に運びこむなどしているそうです。

 

また他社と組んでプライベートブランドを作る際にも、そのこだわりはいかんなく発揮されます。

たとえば、Pantryの人気PB「ピュアチョコレート」。こちらは、大近の他に、チョコエッグや輪投げチョコでおなじみのベテラン菓子メーカー「フルタ製菓」や、小豆島の老舗和菓子店「春日堂」などが協同して製造しています。

無添加でチョコレートを作るには衛生環境が何より大切。大量生産用で配管の長い製造機械でチョコを作ると、他のお菓子の成分が混ざってしまい無添加の看板が曇ってしまいます。

そこで大近では、カカオの粉砕やチョコレート板への加工はフルタに任せつつも、実際のチョコレート製造は少量生産用の機械を持つ数少ない和菓子屋である春日堂に委託。大阪で作ったカカオ板を、一旦、わざわざ船で小豆島へ持って行く手間をかけながらも、老舗の職人力で丁寧に無添加チョコへと仕上げていきます。

本書には、その手間ひま具合が丁寧な取材とともに綴られているのですが「そんなん言われたら絶対うまいに決まってるやん」と、思わず腹が立ちそうなくらいのいい商品ぶりです。

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そんな大近さんですが「食の安全」にこだわるのは、かつてこんなエピソードがあったからだといいます。それは「うどん工場事件」と言われ、同社で代々語り継がれているそう。「オイ、なんか興味をそそるじゃないか、その事件」とお思いでしょうが、本当にいい話なのです。

「うどん工場事件」があったのは1978年のこと。当時副社長だった伊藤賢二氏(後に2代目社長に就任)は、「食の安全」を訴える研究者・向井克憲氏の影響もあり、もともと食品へのこだわりが強かったのですが、ある日、自社の工場を視察した際、おどろくべき光景を目にしたといいます。それは工場の床の緑色のペンキが剥げ落ち真っ黒になっている様子。

「これは何だ?」と思った伊藤さんは当時の工場長に尋ねました。すると工場長はこう言ったそうです。「うどんづくりに使うPH調整剤をこぼしてしまったせいです。これをこぼしてしまうと床を何度拭いても落ちないんです」

これを聞いて伊藤副社長は愕然。「我々は床にこぼしたら、そこを真っ黒に染めてしまうようなものを食べ物に入れて売っていたのか…」

ショックを受けた伊藤さんは工場長にこう聞いたそうです。「この工場で作ったうどんを君の子供や家族に食べさせたいか?」…工場長の答えは「正直言うと毎日は食べさせたくありません」…

もちろんやっていることは違法ではありません。当時の厚生省の食品安全基準は十分にクリアしていました。それでも「これはいか~ん!」という思いにかられた伊藤氏は「明日からこの工場は廃止だ!」とぶちあげます。そしてこう宣言。

「自分の家族にも食べてほしくないものを売って商売をしてはいけない!これから生産体制を大きく見直す!」

そこから数十年をかけ、無添加食品製造への追求が始まったのだそうです。

 

「いい会社」には必ずといっていいほど、こうした「テッパンいい話」があります。「カイシャ本」を読んでいて「これは話を持ってる展開だな」と思うと必ずでてきます。で、「やっぱキターー」という気分になります。

「いい会社」かどうかを見分けるには、その会社のレゾンデートルを聞きつつ「なんでそれを目指そうと思ったんですか?」と尋ねるといいかもしれません。その時出てくる「ストーリー」で見分けられるんじゃないでしょうか…。

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■本日のカイシャ本②:「ジョン・ハンケ世界をめぐる冒険」

こんにちは。

 

本日紹介するのは「ビジネス偉人本」。ビジネス界の偉人というと豊田佐吉松下幸之助、T型フォードのフォードさんといった近代の産業界におけるレジェンドの姿が浮かびますが、この本が扱っているのは現在進行形のビジネス偉人。

居ながらにして世界中を旅した気分になれる「グーグルアース」から、世界中のいい大人たちを「青軍」と「緑軍」の陣取り合戦へと引きずり込んだ「イングレス」、そして世界中の出不精さんたちをハンティングに連れ出した「ポケモンGO」に至るまで…

世界規模でヒットする神アプリや神ゲームを世に送り出しているナイアンティックラボCEOのジョン・ハンケさんです。 

 

ジョン・ハンケ 世界をめぐる冒険 グーグルアースからイングレス、そしてポケモンGOへ

ジョン・ハンケ 世界をめぐる冒険 グーグルアースからイングレス、そしてポケモンGOへ

 

 

本書は、現代のビジネス偉人が自らのこれまでを振り返り語った自叙伝です。

世界が注目するイノベーターはいかにして誕生したのか?

興味があって読んでみました。

 

ハンケさんが生まれたのは1966年、テキサス州。その後、養子となり同州の農家で少年時代を過ごしていたそうです。ですが、地元は農場以外なにもない場所で毎日が退屈。そのため「早くこの町からでていきたい」といつも思っていたようです。

 

そんな彼は、「はるかな世界を感じたい」と、アーサー・C・クラークの小説や「スターウォーズ」・「スタートレック」などのSFにハマっていきます。さらに、観ているだけでは飽き足らず「ダンジョン&ドラゴンズ」などのテーブルトークRPGや,「パックマン」などのテレビゲームにも手を出し、さらには当時普及し始めた家庭用パソコンでプログラミングも始めるように。こうなると、もはや日本のヲタさんたち第一世代とそう変わらない感じで、やけに親近感がわいてきます。表紙でさりげなく着こなしているデニムのシャツも、だんだんオタの着るそれにみえてきました。

 

ちなみに、プログラミングにはかなりハマったようで、なんでも作ってみたくなり自分では全く使うあてのない会計用ソフトまで自作したそう。これには本人も「銀行口座すらもっていなかったのに…なぜそんなものを作ったのか、今となっては自分でもわかりません」と遠い目をして述懐しています。

 

ともあれ、そんなオタ代表のようなハンケさんが、なぜ世界を制する起業家となれたのか?日本ならば、なんJ民かネトウヨくらいしか生まれないハズなのに(嘘です)。

 

僕は、彼独自の「反転力」に、その秘密があると思いました。

たとえば、「リアル陣取りゲーム」イングレスの前身ともなったアプリ「Field Trip」の開発秘話をみてみましょう。この「Field Trip」は2012年、彼がグーグルの社内ベンチャーGeoにいた時に作ったアプリで、街の中で、建物やモニュメントがある場所を通ると、そこに関する歴史や観光情報が自動的にスマホにアップされるというもの。街を歩いているだけで自然とその土地の来歴や、知られざる歴史に触れることができるアプリです。

 

このアプリをハンケさんはどんな思いで作ったのか?彼は言います。

「昔自分は、今住んでいる場所はつまらない。魅力的な場所に行きたいと思っていた」

「同じく戦後のアメリカも身近なものよりも遠い場所のほうがいいという考えが主流。地元よりもニューヨークやロスの方がいいと思われていた。」

「しかし、そういう戦後アメリカ的な錯誤への反省からこのアプリは生み出された」

「どんなちいさな町にも魅力はあります」

 

ようするに「何もない町」だと思うのは「そういう見方」で見るからであって「別の見方」で眺めれば、「何もない町」も別の姿に見えてくる…ハンケさんはそう言いたいのです。

 

よく、「地域を盛り上げるのは、よそ者、若者、バカ者だ」と言われますが、いわばこのアプリは使用者を「よそ者…」にすることで、何気なく通り過ぎていた場所に潜む隠れた魅力を発見できるようにしたのです。

 

そう、「どこかへ行きたかった」ハンケさんが旅路の果てに見つけた「遠く」は、「よそ者、若者、バカ者」の目で見た「近く」だった。ここに彼の独自な「反転力」をみることができます。

 

また、彼のヒット作である「イングレス」や「ポケモンGO」もこの「反転力」が生み出したものだと言えるでしょう。

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なにしろ、彼は少年時代、現実から離れたくてゲームの主人公を操作しながら、バーチャルな世界を旅していたのに、時が過ぎるうち、今度は自分がゲームの主人公となり、逆に、現実をゲームの舞台として旅するようになったのですから。

この独特な「反転力」、発想の転換力が彼のイノベーションの源になっているように思えます。

 

なお、日本は3・11の大震災の際、この「反転力」のお世話になりました。震災後、被災地石巻でハンケさんたちはイングレスのイベント(アノマリーと言う)を開催。被災地を歩きまわり「ポータル(陣取りの陣地となるオブジェや建物)」をみつけると、そこが「震災前はどんな場所だったのか?」が、スマホに浮かび上がる画像を通じて分かるようしてくれました。これにより、震災の記憶を風化させないようにしてくれたのです。なんと意識の高い人なんでしょう。

 

ですが、ハンケさん自身はそうやって「世のため人のため」を考えてゲームを作っているのですが、その利用者たちはというと…

 

  • イングレスにハマりすぎ「ここに陣地を申請したい」と南極まで行ってしまう人
  • 移動しないとふ化しないポケモンの卵をふ化させようと、スマホプラレールに乗せて何周もさせる人。
  • 「モンスターをゲットだぜ!」といって続々とお寺に侵入したせいで「月刊住職」で特集が組まれ、その是非を問いただされる人たち…

 

…なかなかのカオスぶりに本を読みながら思わず笑ってしまいました。これはこれで面白いからアリですけど。いやそれよりも、ハンケさんの口から「月刊住職」のフレーズが出てくるとは想定外すぎです。 

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ともあれ、こういう意識の差がイノベーターと、なんJ民を分けるのかもしれない……そんなことを考えさせてくれるカイシャ本でした。

■本日のカイシャ本①:「茨木・勝田の名店 サザ・コーヒーに学ぶ 20年続く人気カフェづくりの本」

こんにちは。

 

今回紹介するのは「カイシャグルメ本」です。「スペックからストーリーへ」と言われるように、今は、素材や機能そのものよりも、それが生まれるまでの苦労話や「それを買ったらどんな生活が待っているのか?」など商品が帯びるストーリー性に注目が集まる時代。それはグルメの世界も同じ。

マンガ「ラーメン発見伝」でいうところの「あいつらはラーメンを食ってるんじゃない。情報を食ってるんだ!」というやつです。

そんな時代に読んでおきたいのが、食べもの、飲みものを扱う企業の影の努力に迫った「カイシャグルメ本」です。

読めば、売られている食べ物や飲み物が、どれだけ希少な食材で作られ、どれだけ手間がかけられ、どんなこだわりで作られているのかがたっぷり書いてあります。だから読むと、一度は食べて見たくなりますし、食べる時には、たとえそれが数百円のものであろうとも、何か、ありがたいものを食べている気になれ、得した気分になれます。いや、こんなことだからデブレから脱却できないのかもしれませんが。

というわけで「カイシャ」の本でありながら、実質「グルメ本」としても使えるということで「カイシャグルメ本」と勝手にカテゴライズしています。

 

そんな「カイシャグルメ本」の中でも、本書は「地方の名店本」。全国各地には、東京在住の人々には知名度がないものの、その地域では盤石の人気を誇り、全国チェーンが出店してこようとビクともぜず、むしろ彼らの方が「これはかなわん」と、退出してしまう。そんなローカルチェーンがけっこうあります。

たとえば、函館を中心に展開し、マックなどが進出してきてもはねのけてしまう絶品ご当地バーガーショップ「ラッキーピエロ」なんかがよい例です。

僕のような東京在住者にとっては、そういう店のことを知ると「発掘感」がありますし、その地域で何十年も勝ち続けてきたのだから、きっと独自のノウハウがある「いいお店」、「いい商品」に違いないという「安心感」もあります。で、欲張りなことを言うと、東京にも数店出店していると、自分でも買えるのでなおよい。みたいな。

 

その「みたいな」を実現しているのが、本書の「サザコーヒー」です。 

20年続く人気カフェづくりの本 ―茨城・勝田の名店「サザコーヒー」に学ぶ

20年続く人気カフェづくりの本 ―茨城・勝田の名店「サザコーヒー」に学ぶ

 

 

サザコーヒーは、茨城県を中心に13店舗を経営。東京では品川駅のエキナカエキュート品川」や二子玉川駅の駅ビルにも出店しています。年商は約10億円。規模は小さめですが地元茨城では、スタバなど大手のカフェが近くに出店してこようとも、客足はまるで減らず。それどころか向こうが退店してしまうほどの盤石ぶりなのだそう。

ちなみに「サザ」とは「且座」という臨済宗の言葉で「さあ、座してお茶を飲んで下さい」の意味だそうです。

 

そんなサザコーヒーの大きな特徴は「こだわりマスターの喫茶店」と「ほどほどの多店舗化」を同時に実現していることでしょう。

業種は違いますが「町の老舗洋食屋さん」と「都内約20店舗のチェーン化」とを同時になしとげている「つばめグリル」のようなポジションともいえます。意外とこのポジションの外食店は少ないので貴重です。

 

さておき。1981年の最盛期には15万件以上あった喫茶店も、現在では7万軒弱と半分以下に。昔ながらの喫茶店、本書の言葉でいえば「昭和型喫茶店」は今や激減してしまいました。ですが、サザコーヒーは今もレトロなただずまいを残していて、店内に入っても、セルフレジ形式を排しゆったり座れるソファで長居OK感が漂っています。

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また、地価の安い地方の利点を生かした広い庭や、カップや生活雑貨などの販売スペースも設置(これは、服を売るだけでなく、雰囲気の合う生活雑貨も同時に販売する最近のアパレル店などがやっていることの先取りともいえます)。

そして本店には創業者である鈴木誉志男会長が選んだアートを展示するアートギャラリーまでついています。

 

さらに店構え以上にすごいのがコーヒーへのこだわり。本書によれば鈴木会長はもともと東京の錦糸町にある行楽施設・東京楽天地で映画の興行プロデューサーをしていたそうですが、お父さんが茨木の勝田市で劇場経営をしていたこともあり、そこを引きとって喫茶店を開業。

その際、「月刊喫茶」という雑誌で、昭和喫茶店界のレジェンド・関口一郎さん(銀座「カフェ・ド・ランブル」店主。103歳で今なお現役!)の記事に書かれたある一節に出会います。「コーヒーを焙煎しなければコーヒー屋じゃない」

その言葉に「そうなのか!」と衝撃を受けた鈴木さんは、すぐさま国産の3キロ用焙煎機を購入し、自店用に改造。

さらに、今度は広島喫茶界のドンともいえる「十日市茶房」の面出清さんと知り合い「コーヒーは素材で決まる。よい豆を買っておけば、商売は後からついてくるんじゃ」とのお言葉をゲット。ホントに「ついてくるんじゃ」と「仁義なき戦い」風のベタな広島弁で言ったのかは知りませんが、これまた「そうなのか!」と衝撃を受け、世界を回っていい豆を探しまくります。

その結果、今では、自店用の焙煎機はもとより、水をよりおいしくするためにNASA開発の「逆浸透膜浄水器」と呼ばれる不純物を取り除く特殊な機械を使うまでに。また、豆も南米コロンビアに自社の「サザコーヒー農園」を持ち、納得いくものを自分たちで作ってしまうまでになりました。

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なお、この農園ですが政情不安などで何度もつぶれ2006年まで1粒も豆が届かなかったそう。それでも、鈴木さんは思いを実現するまで粘りに粘って今の状態を築きあげたようです。

UCC,ドトールなど大手企業ならいざしらず、茨木の「こだわりマスターの喫茶店」が農園を持つというケースは極めて稀。「こだわりマスター」というが、こだわりすぎです。いや、それ以上に、NASAも自分の作ったものが、まさか北関東の喫茶店にあるとは思ってもみなかったでしょう。

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 こうしてこだわり抜いた素材と機械を使って作ったコーヒーを、日本のバリスタ大会で決勝戦に残った6人中、3人がサザコーヒー出身者という最強のコーヒー職人軍団が入れてくれる。入れ方も、サイフォン、フレンチプレス、ネルドリップなど、時代が求める味にあわせ変化させ来店者を飽きさせません。

さらに、コーヒーだけでなくサイドメニューもうまそう。

  • 千疋屋などに果物を卸す茨木「村田農園」の苺を使った「いちごシェイク」。
  • JA茨木旭村が栽培したメロンをふんだんに使った「メロンシェイク」。
  • 長崎カステラの元祖」・福砂屋の製法を応用した「サザのカステラ」。

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「そんなん言われたら食べたくなるでしょうよ!」と思わされるラインナップ。

 

本書を読んで影響を受けたチョロい僕は、すぐさまエキュート品川で「1杯取りカップ9種類入り」(1000円)を買ってしまいました。

味は、僕が「庶民の舌」なこともあり、9種類の違いがさほどわからないところもあるのですが、高級な酒が「水みたい」だと思うように、とてもすっきりしていて飲みやすいです。また、飲んだ後の独特の酸味もいい感じだと思います。

他にも、本書にはサザコーヒーの考え抜かれたこだわりの数々が書かれていますし、カフェを開業してみたい方々への開店マニュアルとしても読めるようになっています。なので、興味のある方は読んでみてください。

 

また、創業者の鈴木さんは2003年に「日本人のコーヒー店」というカイシャ本を出版。「アメリカンコーヒー、イタリアンコーヒーなどがあるように独自の文化を持つ日本にはジャパンコーヒーの文化が築かれるべきだ」という独自のコーヒー哲学を綴っておられます。それも読んでからサザのものを飲んだり食べたりすると、より美味く感じることと思います。

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ちなみに本書の紹介は以上ですが、個人的には日本の「喫茶店ビジネス」の異様なハイコンテクスト化に面白さを感じています。

⓵”そこにしかないレトロなお店”である「街の喫茶店」→

 

②そのアンチな”どこでも味わえるスマートなカフェチェーン”の「ドトール」や、

 その洗練形態である「スタバ」→

 

③そのまたアンチとしての”レトロなチェーン店”「コメダ珈琲」のブレイク→

 

④そのまた対抗形態である”あえてレトロなチェーン店”の「星乃屋珈琲」

ドトール&日レス)や「ミヤマ珈琲」(ルノアール)→

 

⑤そのまたアンチな”そこにしかないスマートなカフェ”の「清澄白河系」ショップ→

 

⑥そこからさらに進化した”ちょっとだけ多店舗化したスマートなカフェ”である

 「猿田彦珈琲(都内8店舗)」的なるもの…

 

…ここまで「カフェの生態系」が複雑になってくると、逆に一周して⓵の方が一番新しいということにもなってくるかもしれません。

そして実際に、「サザコーヒー」は、⑥のそのまたアンチである”ちょっとだけ多店舗化したレトロな喫茶店”という最先端の位置づけに期せずしてなっているともいえそうです…