カイシャ本Blog

独自のジャンルを築いている「カイシャ本」の世界の魅力を綴っていきます。

■本日のカイシャ本②:「ジョン・ハンケ世界をめぐる冒険」

こんにちは。

 

本日紹介するのは「ビジネス偉人本」。ビジネス界の偉人というと豊田佐吉松下幸之助、T型フォードのフォードさんといった近代の産業界におけるレジェンドの姿が浮かびますが、この本が扱っているのは現在進行形のビジネス偉人。

居ながらにして世界中を旅した気分になれる「グーグルアース」から、世界中のいい大人たちを「青軍」と「緑軍」の陣取り合戦へと引きずり込んだ「イングレス」、そして世界中の出不精さんたちをハンティングに連れ出した「ポケモンGO」に至るまで…

世界規模でヒットする神アプリや神ゲームを世に送り出しているナイアンティックラボCEOのジョン・ハンケさんです。 

 

ジョン・ハンケ 世界をめぐる冒険 グーグルアースからイングレス、そしてポケモンGOへ

ジョン・ハンケ 世界をめぐる冒険 グーグルアースからイングレス、そしてポケモンGOへ

 

 

本書は、現代のビジネス偉人が自らのこれまでを振り返り語った自叙伝です。

世界が注目するイノベーターはいかにして誕生したのか?

興味があって読んでみました。

 

ハンケさんが生まれたのは1966年、テキサス州。その後、養子となり同州の農家で少年時代を過ごしていたそうです。ですが、地元は農場以外なにもない場所で毎日が退屈。そのため「早くこの町からでていきたい」といつも思っていたようです。

 

そんな彼は、「はるかな世界を感じたい」と、アーサー・C・クラークの小説や「スターウォーズ」・「スタートレック」などのSFにハマっていきます。さらに、観ているだけでは飽き足らず「ダンジョン&ドラゴンズ」などのテーブルトークRPGや,「パックマン」などのテレビゲームにも手を出し、さらには当時普及し始めた家庭用パソコンでプログラミングも始めるように。こうなると、もはや日本のヲタさんたち第一世代とそう変わらない感じで、やけに親近感がわいてきます。表紙でさりげなく着こなしているデニムのシャツも、だんだんオタの着るそれにみえてきました。

 

ちなみに、プログラミングにはかなりハマったようで、なんでも作ってみたくなり自分では全く使うあてのない会計用ソフトまで自作したそう。これには本人も「銀行口座すらもっていなかったのに…なぜそんなものを作ったのか、今となっては自分でもわかりません」と遠い目をして述懐しています。

 

ともあれ、そんなオタ代表のようなハンケさんが、なぜ世界を制する起業家となれたのか?日本ならば、なんJ民かネトウヨくらいしか生まれないハズなのに(嘘です)。

 

僕は、彼独自の「反転力」に、その秘密があると思いました。

たとえば、「リアル陣取りゲーム」イングレスの前身ともなったアプリ「Field Trip」の開発秘話をみてみましょう。この「Field Trip」は2012年、彼がグーグルの社内ベンチャーGeoにいた時に作ったアプリで、街の中で、建物やモニュメントがある場所を通ると、そこに関する歴史や観光情報が自動的にスマホにアップされるというもの。街を歩いているだけで自然とその土地の来歴や、知られざる歴史に触れることができるアプリです。

 

このアプリをハンケさんはどんな思いで作ったのか?彼は言います。

「昔自分は、今住んでいる場所はつまらない。魅力的な場所に行きたいと思っていた」

「同じく戦後のアメリカも身近なものよりも遠い場所のほうがいいという考えが主流。地元よりもニューヨークやロスの方がいいと思われていた。」

「しかし、そういう戦後アメリカ的な錯誤への反省からこのアプリは生み出された」

「どんなちいさな町にも魅力はあります」

 

ようするに「何もない町」だと思うのは「そういう見方」で見るからであって「別の見方」で眺めれば、「何もない町」も別の姿に見えてくる…ハンケさんはそう言いたいのです。

 

よく、「地域を盛り上げるのは、よそ者、若者、バカ者だ」と言われますが、いわばこのアプリは使用者を「よそ者…」にすることで、何気なく通り過ぎていた場所に潜む隠れた魅力を発見できるようにしたのです。

 

そう、「どこかへ行きたかった」ハンケさんが旅路の果てに見つけた「遠く」は、「よそ者、若者、バカ者」の目で見た「近く」だった。ここに彼の独自な「反転力」をみることができます。

 

また、彼のヒット作である「イングレス」や「ポケモンGO」もこの「反転力」が生み出したものだと言えるでしょう。

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なにしろ、彼は少年時代、現実から離れたくてゲームの主人公を操作しながら、バーチャルな世界を旅していたのに、時が過ぎるうち、今度は自分がゲームの主人公となり、逆に、現実をゲームの舞台として旅するようになったのですから。

この独特な「反転力」、発想の転換力が彼のイノベーションの源になっているように思えます。

 

なお、日本は3・11の大震災の際、この「反転力」のお世話になりました。震災後、被災地石巻でハンケさんたちはイングレスのイベント(アノマリーと言う)を開催。被災地を歩きまわり「ポータル(陣取りの陣地となるオブジェや建物)」をみつけると、そこが「震災前はどんな場所だったのか?」が、スマホに浮かび上がる画像を通じて分かるようしてくれました。これにより、震災の記憶を風化させないようにしてくれたのです。なんと意識の高い人なんでしょう。

 

ですが、ハンケさん自身はそうやって「世のため人のため」を考えてゲームを作っているのですが、その利用者たちはというと…

 

  • イングレスにハマりすぎ「ここに陣地を申請したい」と南極まで行ってしまう人
  • 移動しないとふ化しないポケモンの卵をふ化させようと、スマホプラレールに乗せて何周もさせる人。
  • 「モンスターをゲットだぜ!」といって続々とお寺に侵入したせいで「月刊住職」で特集が組まれ、その是非を問いただされる人たち…

 

…なかなかのカオスぶりに本を読みながら思わず笑ってしまいました。これはこれで面白いからアリですけど。いやそれよりも、ハンケさんの口から「月刊住職」のフレーズが出てくるとは想定外すぎです。 

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ともあれ、こういう意識の差がイノベーターと、なんJ民を分けるのかもしれない……そんなことを考えさせてくれるカイシャ本でした。