カイシャ本Blog

独自のジャンルを築いている「カイシャ本」の世界の魅力を綴っていきます。

■本日のカイシャ本③:「食(おいしい)は愛(うれしい)」

こんにちは。

 

「カイシャ本」を読む楽しみの1つに「今まで知らなかった”いい会社”」を知れる楽しみがあります。本書もその1つ。もう、タイトルからしてイイ人しか出て来なそうな気配が漂っています。 

 

 

この本で取り上げられているのは、大阪などを中心に32店舗を展開するスーパーマーケットチェーン大近株式会社。関西圏に住んでいる人ならば「PantryやLuckyをやっている会社」といえばピンと来るかもしれません。

関東にも川崎市に溝口店があるのですが、僕は本書を読むまでこのスーパーのことを知りませんでした。 

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じゃあ、この「Pantry」や「Lucky」というスーパーは他と何が違うのか?

それは、徹底して「食の安全」にこだわり、無添加や、無農薬、天然物を追求しているところです。

無添加」や「無農薬」や「天然物」というと、最近ではどのスーパーにも置いてありそうな気がしますが、実際には、「ソルビン酸という保存料だと『保存料』と書かねばならないが、酢酸ナトリウムだと『保存料ではない保存料』なのでセーフ」みたいな不思議なルールに守られていたりするそうです。というか「保存料ではない保存料」って何なのでしょうか…?

美川憲一さんは女じゃないけど女風だ」みたいなことでしょうか。

 

また、加工品そのものは無添加でも、それを味付けする醤油に添加物が含まれているような場合もあります。これを「キャリーオーバー」と言うそうですが、この問題を考えると、原料から何から全て自分のところで作っている加工工場なんてほぼないので、気安く「無添加」とは言えなくなります。

だから、「Pantry」でも積極的に自社商品を「無添加」とは打ち出していません。その分、他が「無添加無添加」と主張するので、「無添加映え」しなくなっていますが、それよりも「誠実さ」を大事にしているそうです。なんていい会社なんでしょう。

とはいえ、無添加とは打ち出していないものの、自社ブランドの製品は、お弁当だろうと、お惣菜だろうと、ハム・ソーセージだろうと、スイーツだろうと極力、大近の自社工場(6か所)で他社任せにせず手作り。化学調味料や保存料の排除を追求。おにぎりなどは塩しか調味料を入れずに作る徹底ぶりです。

また、野菜なども大近バイヤーが直接農家の元に向かい、土の状況から周囲の状況まで調べたうえで「ここなら安全だ」と思えるところから仕入れています。

 

その成果が巻末資料・「他社製品との成分ラベル比較表」に現れています。ここでは大近の商品と、近隣スーパーやコンビニにある同じ商品の成分ラベルを比較しています。

たとえば「おにぎり」を見てみると…他社のものには「アミノ酸(等)」「ソルビット」「カラメル色素」など多くの化学調味料の使用に○印がついてます。ですが、大近のおにぎりには全く○がありません。ベーコンなど他の商品も、見た目は発色をよくする調味料を使っていないため色が暗めですが、成分表には気持ちいいほど○が見当たらない。これはなかなか壮観な光景です。

ですが、その分苦労も多い。というのも、保存料を使わないということは保存期間が短くなるということ。そのため、お弁当などはスタッフが22時ごろから夜なべして作り、早朝に工場からトラックで店舗に運びこむなどしているそうです。

 

また他社と組んでプライベートブランドを作る際にも、そのこだわりはいかんなく発揮されます。

たとえば、Pantryの人気PB「ピュアチョコレート」。こちらは、大近の他に、チョコエッグや輪投げチョコでおなじみのベテラン菓子メーカー「フルタ製菓」や、小豆島の老舗和菓子店「春日堂」などが協同して製造しています。

無添加でチョコレートを作るには衛生環境が何より大切。大量生産用で配管の長い製造機械でチョコを作ると、他のお菓子の成分が混ざってしまい無添加の看板が曇ってしまいます。

そこで大近では、カカオの粉砕やチョコレート板への加工はフルタに任せつつも、実際のチョコレート製造は少量生産用の機械を持つ数少ない和菓子屋である春日堂に委託。大阪で作ったカカオ板を、一旦、わざわざ船で小豆島へ持って行く手間をかけながらも、老舗の職人力で丁寧に無添加チョコへと仕上げていきます。

本書には、その手間ひま具合が丁寧な取材とともに綴られているのですが「そんなん言われたら絶対うまいに決まってるやん」と、思わず腹が立ちそうなくらいのいい商品ぶりです。

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そんな大近さんですが「食の安全」にこだわるのは、かつてこんなエピソードがあったからだといいます。それは「うどん工場事件」と言われ、同社で代々語り継がれているそう。「オイ、なんか興味をそそるじゃないか、その事件」とお思いでしょうが、本当にいい話なのです。

「うどん工場事件」があったのは1978年のこと。当時副社長だった伊藤賢二氏(後に2代目社長に就任)は、「食の安全」を訴える研究者・向井克憲氏の影響もあり、もともと食品へのこだわりが強かったのですが、ある日、自社の工場を視察した際、おどろくべき光景を目にしたといいます。それは工場の床の緑色のペンキが剥げ落ち真っ黒になっている様子。

「これは何だ?」と思った伊藤さんは当時の工場長に尋ねました。すると工場長はこう言ったそうです。「うどんづくりに使うPH調整剤をこぼしてしまったせいです。これをこぼしてしまうと床を何度拭いても落ちないんです」

これを聞いて伊藤副社長は愕然。「我々は床にこぼしたら、そこを真っ黒に染めてしまうようなものを食べ物に入れて売っていたのか…」

ショックを受けた伊藤さんは工場長にこう聞いたそうです。「この工場で作ったうどんを君の子供や家族に食べさせたいか?」…工場長の答えは「正直言うと毎日は食べさせたくありません」…

もちろんやっていることは違法ではありません。当時の厚生省の食品安全基準は十分にクリアしていました。それでも「これはいか~ん!」という思いにかられた伊藤氏は「明日からこの工場は廃止だ!」とぶちあげます。そしてこう宣言。

「自分の家族にも食べてほしくないものを売って商売をしてはいけない!これから生産体制を大きく見直す!」

そこから数十年をかけ、無添加食品製造への追求が始まったのだそうです。

 

「いい会社」には必ずといっていいほど、こうした「テッパンいい話」があります。「カイシャ本」を読んでいて「これは話を持ってる展開だな」と思うと必ずでてきます。で、「やっぱキターー」という気分になります。

「いい会社」かどうかを見分けるには、その会社のレゾンデートルを聞きつつ「なんでそれを目指そうと思ったんですか?」と尋ねるといいかもしれません。その時出てくる「ストーリー」で見分けられるんじゃないでしょうか…。

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